憂鬱ラヂオ

どれほどあなたのこと思う

カレーが食べたい

深い夜 が僕を大きくゆっくりと包み込み、宙へ舞い上がって綺麗に破裂する その一つ一つの破片の中に僕は居て 呼吸をするように 口をぱくぱくさせる 僕の一つの破片は森の中へ入って行った 泥の中にバウンドし 汚れた土と一緒になった 奥へ進むとバラバラ星人が居て 人をバラバラにするのが楽しいんだそうな 僕は無視してバラバラ星人を通りすぎた 真っ暗でどこにも進むことなど無理だと理解しているのに 僕の一つの破片は歩むことをやめない 歯ぎしりしながら。森に咲く小さな花は美しく僕を優しく撫でる。キスしたい。あの娘とキスしたい。破裂した原因は、君が儚くて淡い色をした可憐な娘だったからだなんて言うと、皆にバカにされそう。僕は押し黙って、破裂した一つ一つの欠片を集める旅を、君を求め続ける旅を始める

第四章 毒の染み付いた舌を嘗めたい

「あ、……君、名前は?」少女は靴を脱ぎながら答えた。「詩乃っていうの。」「オレは中里毅、まあ好きなように呼んでくれ。……詩乃ちゃん、雨に打たれて寒かったろ。湯船に浸かっていけよ。制服も乾燥機に入れといてあげるから」風呂の支度をしながらオレは言った。慌てて少女は言う。「そこまでして貰うなんて駄目!」オレはパッと振り返って「これもなにかの縁、だろ」なんかキザだな。誰かさんに似ちまったのか。少女は観念したように風呂に入る準備を始めたのでオレはその場から離れた。何を振る舞おうか、女の子だから可愛い食べ物がいいよな。冷蔵庫を開いて考えた。久しぶりだな、人に何か振る舞うの。一段と気合いが入る。コンロに火をつけた。「毅くん」背後で名前を呼ばれ、思わず驚いてしまった。「お風呂ありがとう。着る服無かったから、そこら辺に置いてある服借りたわ」「えと、制服は」「言われた通り乾燥機に入れた。」なんて手際がいい娘なんだ。「うん。良し良し。」フライパンを持ったまま頷いていると「コンロの火がつきっぱなしよ?」オレは急いでフライパンをコンロの上に乗せた。「ふう…」「んふふっ」今度は何だろうか?と思い振り返った。「やっぱり面白い人」口元にそっと手を当てながら小さく肩を揺らしていた。オレはなんだか恥ずかしくなって、向こうで座って待っててくれ、と少女の顔が見れないまま言った。なんだよ、もう。調子が狂う。今は料理に専念するしかない!…この時、ベッドの上に置いていた携帯がひっきりなしに鳴っていた事に気付かなかったのだった。
料理を机の上に並べる。我ながら自信作だ。少女を呼ぶと、わっと目を輝かせて食べ物に齧り付いた。「これなんていうの?」「ん…今都会で人気のパンケーキというやつだ」「毅くんすごい!いただきます!」詩乃ちゃん…は口をもぐもぐさせながら「美味しい!」と嬉しそうに言ってくれる。「ありがとな、事前に来ると分かってたらもっと用意出来たんだけどな。あ そうそう、飲み物はアイスココアでいいか?」食べながら首を縦に振っていた。アイスココアと自分のホットコーヒーを作って向かいに座った。「ごちそうさま」「美味しそうに食べてくれて何よりだ。」コーヒーを口に含んでオレは久々の喜びを味わった。「ところで、あの、私見ちゃったの。」下を向きながら何やらもじもじとしている。「どうした?」「エロ本の特集、セーラー服だらけ」オレはコーヒーを吹き出しそうになった。「私の学校の制服セーラー服だったでしょ、だから」詩乃ちゃんは勢いよく立ち上がって洗面所に走って行ってセーラー服を抱えて来てこう言った。「お礼がしたいの!」オレの目を真っ直ぐ向きながらそう言われて、「ば……ば……ばかな事を言うんじゃない、もう用事が終わったんだか」オレがあたふたとしている間に少女はセーラー服に着替え終わっていた。「ね?」頭の中で何かが破裂する音がした。その瞬間、理性など吹き飛んでしまった。「知らねぇぞ!」細い身体をきつく抱き締めて熱い接吻をした。とろとろになるまで唾を絡ませた。「毅くん……雑誌で見た通りの事しよ……」少女はオレをベッドの上に立たせ、しゃがんだままベルトを外してモノを露わにした。咥えて「いいれしょ、これ……」オレは天にも登るような気持ちで詩乃ちゃんの黒髪のショートカットの頭を撫でた。自分で、はっきりと分かった。この少女にまたオレは堕ちていくんだと。

第三章 毒の染み付いた舌を嘗めたい

オレはこの土砂降りの雨の中、街灯に照らされ傘も差さずに立っている女の子を見た。そのまま通り過ぎたが、あれはもしかして幽霊だったんじゃないかと思って、一周してまた戻って来た。違う。人間だ。オレは思わず声をかけた。「おい、どうしたんだ」女の子は肩を強張らせてオレと視線を合わした。なんだか怯えている様に見えた。「貴方ですか」女の子はおどおどと、でも睨みつける様にして言った。「? 何の話だ?」女の子はパッと血相を変えて言った。「助けて下さい!!」突然の申し出に驚いたが、隣に乗せてあげる事にした。「ふーん、それで来いって?変な奴も居るもんだな」オレは心の中で思った。慎吾のヤロー。アイツまた変な事を企んでたな。後で叱っておかないと。と、色々話したり考えたりしてる内に自然と自宅へと到着してしまった。「ワリィ、オレん家…着いちゃった」頭をぽりぽりと掻きながら言ったら女の子は、ぷっと吹き出した。「面白い人…」「? すまん…せっかくだから美味しいもん出すから上がっていきなよ」しまった、もう女の子は亜澄の件で懲りているから家に上がらせたくないと思っていたのに。「じゃ、遠慮なく」女の子はニコッと笑って車から降りた。参ったな……。

第二章 毒の染み付いた舌を嘗めたい

オレはターゲットにした相手の情報を自分のスマホに素早く入れた。メッセージを新規作成のボタンを押し、“今すぐ○○の○○に来い。さもなくば家族友人皆殺す”と入力し、送信した。そして何事も無かったかの様に車に乗り込んだ。これはゲームに近い感覚があった。本当に来る確率40%…てとこか。別に沙雪の振りをして呼び寄せた方が確実なんだけどな。オレはそんな煩わしい事したくないのさ。沙雪のスマホは車に乗る前に渡した。後は待つだけ…。「おい、もっと飛ばせ」オレはアルコールがぐるぐるに回ったボヤ~とした頭で言った。「分かりました」車を次々に追い抜いて飛ばして行く。やがて、オレ達の車は住宅街へと入って行った。「沙雪さん、着きましたよ」「んん……もう着いたの?」「さっさと降りろオレぁ急いでんだヨ」沙雪はオレに対する怒りをみるみるうちに思い出した様で、「運転手クン、ありがとう。さよなら」そう言い、勢いよく車から出て行った。「……行きましょうか。ここから慎吾さんが今日泊まる奴の家まで結構ありますね」オレは煙草に火を付けて言った。「早く行こうぜ」「はっ、はい」車は慌てて発進した。激しく変わりゆく景色もそろそろ見飽きてきた頃、オレはふと毅のことを思い出していた。特に意味は無いはずなのに、何か引っかかる。オレはあいつに何か言わなければならない事があるんじゃないのか。「なあ……」そうオレは隣に居る奴に話しかけた。が、まさかと思った。居眠り運転してやがる……!コイツ確か、店で「遅番で寝てないんすけどね」とか言ってた事に気付く。アルコールでぼんやりしていた頭が急激に覚めた。前方には緩やかなカーブ、大丈夫だ。オレはステアリングを左へ切った。「!!」左右の分かれ道が目の前に現れたと思った瞬間、身体に物凄い衝撃が走った。

先程、○○県の○○の国道で、運転手一名、助手席に座っていた一名合計二名の死亡が確認されました。現場にブレーキの跡は無く、居眠り運転と思われています。

第一章 毒の染み付いた舌を嘗めたい

「これからはマジメにするんだぞ!」そう言われて、オレは約三年振りに外の空気を吸った。「慎吾さん、お疲れ様です」ザーザー降りの雨の中、ツレ達はオレを待っていた。煙草を差し出され、受け取ると火を点けられる。煙を吐いて「なんでよりによってこんな雨なのかねェ……」ツレ達が言う。「同感です。せっかくなのにもっとパーッと晴れてほしかったです」傘を差されながら車まで歩く。煙草を持つ手は重く気怠い。全身に倦怠感が襲っていた。どうせこの鬱陶しい雨のせいに決まってる。半分も吸っていない煙草を投げ捨て、ツレの車に乗り込む。「店、取っておきましたから。詳しい話はそこで」オレは相槌を打ち、雨に負けじと激しいエンジンがかかる音を聞いた。
肉が焼けていく煙と、煙草の煙でもうもうとしている店の個室でオレは、オレが居なかった間の話を全て聞いた。ハチロクの野郎が関東を全制覇した話や、メンバーの中の一人が結婚をして子供を産んだ話など、様々だったが、何故か皆、アイツの話をしてこない。オレが言うアイツとは、もうあの一人しか居ない。「で、毅はどうしたんだよ」その場に居た全員が、凍り付いた様に静まり返った。「あ…、それが今日呼んだんすけど、なんか曖昧な返事しか返ってこなくて……」続けて他の奴らも言う。「絶対に来て下さいって、オレ言ったんすよ。そしたら行けたら行くみたいな事言われて……」「結局来なかったって訳か、けっ、アイツらしいぜ」連中は胸を撫で下ろして、それぞれの世界へと戻っていった。オレなんかと顔も合わせたくないっていう、意思表示でいいんだな……?オレは別に構わねーけど、本当に、それでいいんだな……?オレは下を向き、肩を揺らした。笑いが止まらない。「慎吾さん、すみません。オレこれからバイトがあるんで、お先失礼します!」下を向いたまま手をひらひら挙げ、一人帰っていき、また一人、と連中は何かしらの用事で次々に帰って行った。「慎吾さん、今日はそのぐらいにしといた方がいいっすよ!飲み過ぎっすよ!」「バカ野郎、今日だから良いんだって話だよ!」久しぶりに浴びる様に酒を飲み、潰れた。「お願いします、もう帰りましょう」テーブルに突っ伏していた顔を上げ、ふらふらと立ち上がり、端っこで横倒れになっている女のケツを蹴り上げた。「出るぞ沙雪!!」すぐさま姿勢を正し、起き上がるとオレをひと睨みし、勢いよく鞄を取って先に歩いて行ってしまう。「待って下さいよ沙雪さん!」大慌てで沙雪の後を追って行くメンバーを見て堪らず笑っていると、沙雪が居た所から電子音がした。沙雪の奴、スマホ忘れてやがる。オレはスマホを拾い上げ、液晶画面を見やる。画面には「詩乃」と表示されていた。ふと、オレの中にある思考がよぎる。オレを呼ぶ声がする。口の端を歪に上げ、薄暗くて、けれど甘い感情をゆっくり噛み締め、店を出た。

強盗の被害に遭った喫茶店は何事も無かった様に今日も普通を装う

地を這う私達は空に憧れを抱く 私もその一人だ
空を見上げると 足元がぐらついて あまりの空の遠さに慄き 足取りがふらふらとする。
最近の出来事は派手にすっ転んだり等とかいった そんな面白い様なビッグニュースは無いけれど
落ち着いた日々を過ごしている。
何かアクションを起こしたりしないのは
この安寧に惰性で ただ暗闇に蹲っている、とでも言おうか。
外の風に吹かれ その冷たさを身体中で感じ その中にいつまでも居たいだけ。
変化など求めていない。低く暗い海底を当ても無く漂っている。
僕は自分が何をしたいのかが良く解る
穏やかな日々に身を委ねていたいだけ──
広い世界に怯え 小さな世界で細々と毎日を暮らしていたい
世界の空気を痛感する 空を飛翔する僕の心は まだまだ黎明を迎えていない一羽の小さな鳥

スパルタの狐 19 その後

俺はその日学校を休んで葬式に来ていた。誰も泣く気配などなかった。皆がただそこに仕方なく座り、仕方なく木魚の音でも聞いている感じだった。亜澄、俺は亜澄が両親に虐待されていて、終いには孤児院で暮らしていた、だなんて事知らなかった。何故、どうして教えてくれなかったんだ?今となっては聞く術がないよな。だって、亜澄は死んだんだから。他者に殺されたんだったら、俺はそいつに強い憎しみを抱くだろう。もしかしたら、殺意も湧いてくるかもしれない。でも、亜澄は、自分で決めたんだ。そこに、俺が介入する隙は残念ながらないのだろう。そう色々と考えていると、隣に座っているとある男性に肘で小突かれた。「おい、次お前の番だぞ」はっとして俺は思考から目が覚めた。立ち上がって、亜澄の所へ行く。亜澄は、とても穏やかな顔をしていた。まるで何も苦などない様に。一連の動作をして、席へと戻った。
火葬してる間、隣に座っていた男性──毅さんに、ちょっと外へ行こう、と誘われたので一緒に外へ出た。煙草を勧められたけど、断った。全然吸いたいと思う気分じゃない。「慎吾は捕まったよ」煙草の煙を吐いて毅さんはそう言った。「…俺、なんにも聞かされてないんです」「そうか。あいつが捕まった理由は、孤児院からあの子を引き取ったのにも関わらず大事にしてやれなかったせいでな。それで罪に問われた」毅さんは更に続けた。「孤児院の友達はあの子は逃げたとかなんとか言って裏切られたって思ったから、来なかったんだとよ」「…そうですか」毅さんと亜澄はどんな関係だったのかは話そうとはしなかった。俺はもはやそんな事はどうでもいいと思った。亜澄にとって、俺はどんな存在だったのか。その捕まった奴の顔がぼんやりと浮かんで、そいつと亜澄が行為をしてる想像をした。それは、かなり俺を辛くする要因だった。全ての原因はあいつにある様な気がした。拳に力を込める。そいつをめちゃくちゃにする想像もした。その時「おい、顔が怖いぞ。あいつが憎いだろうとは思う。多分お前の思ってる事と俺の考えてる事は一緒だ。だから、今あいつを殺す想像をしてたんだろ。」「…はい」「あいつも悪かった。だけどな、亜澄を一番最初に救ったのはあいつなんだ。それは分かるな?」俺は黙ったままだった。そうかな。確かに亜澄を助けたのはあいつだけど、だけど……「亜澄はもう戻って来ないんですよ。それに気付いてますか?」俺は毅さんを真っ直ぐに見た。「忘れろ」毅さんは目線を下におろして言う。「忘れるんだ」それは自分に言い聞かせているみたいだった。