憂鬱ラヂオ

頭文字Dの夢小説と普段の生活の綴りです

第一章 毒の染み付いた舌を嘗めたい

「これからはマジメにするんだぞ!」そう言われて、オレは約三年振りに外の空気を吸った。「慎吾さん、お疲れ様です」ザーザー降りの雨の中、ツレ達はオレを待っていた。煙草を差し出され、受け取ると火を点けられる。煙を吐いて「なんでよりによってこんな雨なのかねェ……」ツレ達が言う。「同感です。せっかくなのにもっとパーッと晴れてほしかったです」傘を差されながら車まで歩く。煙草を持つ手は重く気怠い。全身に倦怠感が襲っていた。どうせこの鬱陶しい雨のせいに決まってる。半分も吸っていない煙草を投げ捨て、ツレの車に乗り込む。「店、取っておきましたから。詳しい話はそこで」オレは相槌を打ち、雨に負けじと激しいエンジンがかかる音を聞いた。
肉が焼けていく煙と、煙草の煙でもうもうとしている店の個室でオレは、オレが居なかった間の話を全て聞いた。ハチロクの野郎が関東を全制覇した話や、メンバーの中の一人が結婚をして子供を産んだ話など、様々だったが、何故か皆、アイツの話をしてこない。オレが言うアイツとは、もうあの一人しか居ない。「で、毅はどうしたんだよ」その場に居た全員が、凍り付いた様に静まり返った。「あ…、それが今日呼んだんすけど、なんか曖昧な返事しか返ってこなくて……」続けて他の奴らも言う。「絶対に来て下さいって、オレ言ったんすよ。そしたら行けたら行くみたいな事言われて……」「結局来なかったって訳か、けっ、アイツらしいぜ」連中は胸を撫で下ろして、それぞれの世界へと戻っていった。オレなんかと顔も合わせたくないっていう、意思表示でいいんだな……?オレは別に構わねーけど、本当に、それでいいんだな……?オレは下を向き、肩を揺らした。笑いが止まらない。「慎吾さん、すみません。オレこれからバイトがあるんで、お先失礼します!」下を向いたまま手をひらひら挙げ、一人帰っていき、また一人、と連中は何かしらの用事で次々に帰って行った。「慎吾さん、今日はそのぐらいにしといた方がいいっすよ!飲み過ぎっすよ!」「バカ野郎、今日だから良いんだって話だよ!」久しぶりに浴びる様に酒を飲み、潰れた。「お願いします、もう帰りましょう」テーブルに突っ伏していた顔を上げ、ふらふらと立ち上がり、端っこで横倒れになっている女のケツを蹴り上げた。「出るぞ沙雪!!」すぐさま姿勢を正し、起き上がるとオレをひと睨みし、勢いよく鞄を取って先に歩いて行ってしまう。「待って下さいよ沙雪さん!」大慌てで沙雪の後を追って行くメンバーを見て堪らず笑っていると、沙雪が居た所から電子音がした。沙雪の奴、スマホ忘れてやがる。オレはスマホを拾い上げ、液晶画面を見やる。画面には「詩乃」と表示されていた。ふと、オレの中にある思考がよぎる。オレを呼ぶ声がする。口の端を歪に上げ、薄暗くて、けれど甘い感情をゆっくり噛み締め、店を出た。