憂鬱ラヂオ

どれほどあなたのこと思う

スパルタの狐 19 その後

俺はその日学校を休んで葬式に来ていた。誰も泣く気配などなかった。皆がただそこに仕方なく座り、仕方なく木魚の音でも聞いている感じだった。亜澄、俺は亜澄が両親に虐待されていて、終いには孤児院で暮らしていた、だなんて事知らなかった。何故、どうして教えてくれなかったんだ?今となっては聞く術がないよな。だって、亜澄は死んだんだから。他者に殺されたんだったら、俺はそいつに強い憎しみを抱くだろう。もしかしたら、殺意も湧いてくるかもしれない。でも、亜澄は、自分で決めたんだ。そこに、俺が介入する隙は残念ながらないのだろう。そう色々と考えていると、隣に座っているとある男性に肘で小突かれた。「おい、次お前の番だぞ」はっとして俺は思考から目が覚めた。立ち上がって、亜澄の所へ行く。亜澄は、とても穏やかな顔をしていた。まるで何も苦などない様に。一連の動作をして、席へと戻った。
火葬してる間、隣に座っていた男性──毅さんに、ちょっと外へ行こう、と誘われたので一緒に外へ出た。煙草を勧められたけど、断った。全然吸いたいと思う気分じゃない。「慎吾は捕まったよ」煙草の煙を吐いて毅さんはそう言った。「…俺、なんにも聞かされてないんです」「そうか。あいつが捕まった理由は、孤児院からあの子を引き取ったのにも関わらず大事にしてやれなかったせいでな。それで罪に問われた」毅さんは更に続けた。「孤児院の友達はあの子は逃げたとかなんとか言って裏切られたって思ったから、来なかったんだとよ」「…そうですか」毅さんと亜澄はどんな関係だったのかは話そうとはしなかった。俺はもはやそんな事はどうでもいいと思った。亜澄にとって、俺はどんな存在だったのか。その捕まった奴の顔がぼんやりと浮かんで、そいつと亜澄が行為をしてる想像をした。それは、かなり俺を辛くする要因だった。全ての原因はあいつにある様な気がした。拳に力を込める。そいつをめちゃくちゃにする想像もした。その時「おい、顔が怖いぞ。あいつが憎いだろうとは思う。多分お前の思ってる事と俺の考えてる事は一緒だ。だから、今あいつを殺す想像をしてたんだろ。」「…はい」「あいつも悪かった。だけどな、亜澄を一番最初に救ったのはあいつなんだ。それは分かるな?」俺は黙ったままだった。そうかな。確かに亜澄を助けたのはあいつだけど、だけど……「亜澄はもう戻って来ないんですよ。それに気付いてますか?」俺は毅さんを真っ直ぐに見た。「忘れろ」毅さんは目線を下におろして言う。「忘れるんだ」それは自分に言い聞かせているみたいだった。