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憂鬱ラヂオ

頭文字Dの夢小説と普段の生活の綴りです

スパルタの狐 18 ~完結~

慎吾が帰って来る前にシーツの乱れを綺麗にしたりシャワーを浴びたりした。毅の残り香も消臭スプレーを部屋全体にかけて、対策ばっちりだと思った。逆にキチンとし過ぎて怪しまれないか不安だったけど、慎吾はお馬鹿さんだからどうせそんな些細な事気付かない。ほら、そうこうしているうちに慎吾が帰って来た。「俺疲れた。寝る」部屋着にも着替えずに慎吾はベッドへと倒れ込んだ。そのままぐうぐうと寝てしまった。私は荷解きに取り掛かった。お皿を食器棚に仕舞ったり、服をハンガーに掛けたりした。次の段ボールを開けたら、いつか慎吾と水族館へ行ってお土産屋さんでこっそり毅と色違いのイルカのストラップを買ったのが出てきた。私はそれをそっと手に取り、思い出に浸った。思い出から目が覚めると私はそのストラップをズボンのポケットに入れ、また荷解きの作業に掛かった。やがて段ボールは減っていき、遂には部屋に段ボールが無くなってすっきりとした部屋になった。さすがに疲れた私は慎吾の寝ているベッドへ横になって、少しだけ慎吾の寝顔を見ていつの間にか眠った。
「亜澄!起きろ」慎吾の声ではっと目が覚めた。「暇だからゲームの相手しろー」「もうちょっと寝たい…」「新作のゲームが届いたんだぜ」「起きる!」時計を見ると夕方だった。私達はご飯を食べるのも忘れてゲームに没頭した。「げっ、もう22時じゃん、あー体痛い。亜澄、気分転換に走りに行こうぜ、腹も減ったしな」「いいよ」車に乗り込み、夜の町へと繰り出した。ファミレスで遅い晩ご飯を食べながら慎吾の話す馬鹿話を聞いて笑っていた。その後、妙義山へ行った。外へ出て、真冬の満天の星空を二人で眺めた。慎吾は煙草に火を点け煙を吐いた。「町が星屑に見えるな」「ほんとね」私も煙草に火を付けようとした時、慎吾がふいにこう言った。「結婚しよう」私は煙草を落としそうになった。結婚?いつかはそうなるとは思っていたけれど、ようやくその時が来たか、と思った。「もちろん」慎吾は照れているのか、向こうの方を向いていてどんな表情をしているのか気になったので覗き込んでみた。「見んな馬鹿」やっぱり照れているんだあ。私は笑いながら慎吾の顔を見ようとがむしゃらに腕を引っ張ったりした。楽しかった。
家に帰って、慎吾が眠りについたのを確認して、私は自分のコートのポケットからある硬い物をゆっくりとした動作で取り出した。慎吾が護身用にでも使えとばかりに勝手に忍ばせた“ナイフ”だった。私はイルカのストラップの紐を柄に結んだ。首に刃先をあてがい、一気に押した。この世に産まれてきたのは何かの間違い。神様のミスだ。だから私は自分でケリを付けなければいけない。沢山辛い事もあったけど、私はきっと幸せ── だった。