憂鬱ラヂオ

どれほどあなたのこと思う

スパルタの狐 5

二階に上がると部屋が二つあった。どちらが拓海の部屋なんだろうか、と思った。どちらとも何も特徴のない部屋だった。私は迷った。まず一つ目の部屋に入り、枕に顔を近付けて匂いを嗅いだ。それから部屋の周囲を見渡した。こっちではない。もう一つの部屋へ入る。再び枕の匂いを嗅いでみる。こっちだ。嗅いだ事のある匂いだ。ふう、と私は息をついた。地べたに三角座りで頭を項垂れた。ポタ、と髪から水滴が落ちる。しばらく休んでいる学校の事を考えた。休む事は、あいつらから逃げる事になるんじゃないか、余計あいつらの好奇心を刺激しないだろうか。あの日、拓海と初めて会ったときの事を思い出していた。購買にパンを人数分大量に買いに行かされていた私は、パンを抱え急ぐ廊下でパンを一つ落としてしまった。拾おうとして、屈んだらもっと落ちてきた。たまたま通りかかった当時高校三年生の拓海に「大丈夫か」と言われ助けられたのだ。パンを一緒に拾ってもらって私は「ありがとうございます」と言い先を急いだ。私の完全なる一目惚れだった。昼休みが終わろうとして、あいつらに、おい、二ノ宮、と呼ばれた。私は黙って近付いて行った。下にはパンのゴミやジュースのパックなどがぐちゃぐちゃに放り捨てられていた。お前拾って捨ててこい、ついでにゴミ箱いっぱいだから皆のゴミも捨てて来て、と言われ私はその通りにした。ゴミ捨て場に辿り着くと先程の助けてくれた人が誰かと喋っているのだった。「あれ、君、さっきの…」「なになに、拓海この可愛い女の子と知り合いなの!?ちえーっなんだよ拓海ばっかり」「さ、さっきはありがとうございました。ゴ、ゴミを捨てるので、そ、そ、そこをど、ど、」「ああ、ごめん、邪魔だよな、俺達」と彼は言って退いた。私はゴミを捨て急いでチャイムが鳴る前に教室へ戻らなきゃ、と半ば強迫観念で思っていると拓海に声をかけられた。「君…」ドキッとして「もしかして苛められてるのか」更にドキッとした。何も言えないでいると「放課後、校門のとこで待ってるから」と言われて…話を聞いてくれたのだった。「だったら行かなくていいんじゃないか、学校」と言われ私は戸惑ったのを覚えている。回想に少し疲れると「亜澄?」と呼ばれて顔を上げた。